競技シーンにおけるリアルタイムバトル将棋の基礎知識

リアルタイムバトル将棋は見た目こそ将棋ですが、対戦における考え方は本将棋とはかなり違っています。
この記事では両者の違いを比較しつつ、現在の競技シーンにおけるリアルタイムバトル将棋の試合の基本的な部分について解説をしてみます。
これからちょっと始めてみたいという方や、興味があって一度観戦してみたいといった方の助けになればと思います。

 

 

囲いの有無

 

RTB将棋では本将棋での穴熊や美濃囲いといった、王様の守りを固める囲いはほとんど使用されません。
理由としてはまず第一に、このゲームでは駒の展開がスピーディーであるため、どこからでも攻めを起こしやすいということにあります。
囲いという形で王様の周りに金駒を集めると、全体のバランスが悪くなって薄くなった場所を攻められやすくなります。
そのため、主に用いられる構えとしては本将棋でいう中住まいや風車、駒落ち戦での陣形などに似た、左右に駒をバランス良く配置する形です。そうやってどこから攻められても受けられるようにするのが主流です。
この際、相手からの駒の打ち込みに備える意味で地下鉄飛車の形が採用されることが多いです。
このあたりのお話はクロスさんが書かれている攻略wikiの記事も参考にしてみてください。

定跡について - リアルタイムバトル将棋攻略wiki

 

相矢倉の形。リアルタイムバトル将棋の試合でこのような形が採用されることは基本的にない。

リアルタイムバトル将棋の試合でよく見られる形の一例。全体的にバランス良く駒を配置する。

囲いが使用されないことの第二の理由は、王様という駒の強力さにあります。
クールタイム3秒という歩と同等の速度を持ち、なおかつ全方向に動ける王様はこのゲームにおいて実質最強の駒になっています。
取られればもちろん負けですが、そのリスクを回避しつつ攻めでも受けでも積極的に王様を活用していくのが有利に試合を進めていくうえでの重要なポイントです。
プレイヤーによっては囲いどころか、王様を単独で最前線に突っ込ませて入玉を狙うといった戦法まで見せるほど。

囲いを採用するということは前線で王様を活用しないということであり、ゲーム的にいうと消極的な構えになるかと思います。
もちろん初心者の時期は操作の点でも盤面把握の点でも、王様を逃がしつつ上手く立ち回るというのはなかなか難しいことなので、ある程度守りを固めるということは間違いではありません。
ですが、慣れてきたら王様という最強の駒を上手く活用することがこのゲームで勝つための重要な要素であるということは覚えておきましょう。
観戦のうえでもプレイヤーがいかに王様を巧みに捌くかは注目どころの一つだと思います。

 

仕掛け


本将棋において仕掛けといえば、まず歩の突き捨てから入るのが一つの基本と言えるでしょう。
例えば棒銀などは歩を交換しつつ銀を前に繰り出す基本的な攻めの形です。
しかしRTB将棋において歩の突き捨ては、相手に歩を渡すというデメリットが発生します。
渡した歩で何をされるかというと、このゲームの最重要とも言えるテクニック「確定反撃」です。
RTB将棋で棒銀のような攻めをすると、即座に確定反撃で前に出した重い駒は取られてしまいます。
このゲームでは本将棋よりも歩の価値がかなり高いので、歩の突き捨てから入る攻め筋は、特に序盤において少々やりにくくなっています。

 

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本将棋棒銀のような仕掛けをすると、確定反撃が飛んでくる

 

RTB将棋において主流となる仕掛けの形は、相手の歩を取って後ろから歩で支える形です。
主に使用するのは角、桂馬。
相手の歩を先に取り、駒が取られたとしても支えた歩で相手の駒を取り返すことができるこの攻めが非常に有効です。
歩の価値が高いため、序盤から角を捨てるような攻めであっても、歩ともう一枚との2枚換えかつ筋を破れるので十分成立します。
この有効な攻めの形を作れるかどうかが対戦において重要で、序盤の形作りの上でも一つの焦点になってきます。

 

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1P側は角で4四の歩を取って後ろから4五歩と支える仕掛け。2P側は桂馬を成りこんで歩で支える仕掛け。どちらも有力な攻め筋の一つ。

 

 

にらみ合い

 

慣れたプレイヤー同士の試合になってくると、当然お互いこういったことを分かっていますので、お互いが相手に仕掛けの形を作らせない駒組をするようになります。
そうなってくると、無理やりにでも攻めるためにはデメリットのある歩の突き捨てが必要になってきます。
このため受ける側が有利になりやすく、これを両者が嫌った場合は互いに仕掛けない、にらみ合いの展開が発生します。

両者風車系の構え。典型的なにらみ合いの場面。攻めるためにはどこか歩を突かなければならず、上手く立ち回らないと仕掛けた方が不利を背負う。

 

 

このゲームでは右上に表示された制限時間内に勝負がつかなかった場合は、駒ごとの得点を計算しての得点勝負となります。(点数は歩が1pt、香桂銀金が2pt、飛角が3pt)
上の画像のような状態から両者ともに仕掛けずにらみ合いのままで終了した場合は同点なので引き分け再試合になります。


さてそれではお互いが受けの棋風のプレイヤーだった場合に我慢比べになって勝負がつかなくなりそうですが、ここで重要になってくるのが、試合終了間際に相手の駒を取って得点勝ちする、という手段があるということです。
基本的には角で最後に相手の歩を一枚取って、1ポイント分の得失差で勝つことを狙います。(取るタイミングが早すぎると相手に角を取り返されて逆に負けてしまいます)
上の画像で見たような完全な受けの形の場合、角道が閉じてしまっているためこれが実行できません。角道を開けるためには歩を突き捨てないといけないので、ポイント勝ちができないのです。

そのため、にらみ合いになった場合には角道を通している側が、一方的に勝利の主導権を握る展開になります。
終了間際ギリギリのタイミングで駒を取るのはそれなりに難しく、相手側も取られる直前で回避しようとしたりするので確実に勝てるというわけではありませんが、有利な状況ということには変わりありません。
自分から仕掛けずに待ち構える作戦は一見有効なようですが、完全に角道を塞いでしまうような極端な受けの形だと終了間際の攻防で一方的に守勢に立たされることになるため、上級者は避けることが多いです。

 

角道が通っていない1P側に対して、2P側は通っている。互いに仕掛けず時間切れ模様になった場合に勝利の主導権を握れるのは2P側

 

 

角交換

 


このような背景から、両者ともに角道を通したままの戦いが起こりやすくなります。そこから必然的に起こってくるのが角交換の試合です。
現状のプロ同士の試合でも主流の一つになっており、特に採用率が高いのが角交換から筋違い角を使った戦法。
筋違いに角を打ち込むことで、先に説明した相手の歩を取って歩で支えるという仕掛けの形が作りやすくなるのが大きな利点です。
この攻めに対する攻防が、現状のRTB将棋における主流の定跡形といっていいと思います。
いろいろ形や試合の流れがあるのですが、それを解説していくとそれだけで一記事が軽く書けてしまうくらいなので今回は割愛です。

筋違い角の攻めを嫌って角交換を拒否する選択もありますが、その場合は先に述べた理由から、端角や引き角などで角道を通す手段を残すなど、何かしら打開の手段を講じる必要があります。

 

相筋違い角の試合。1P側の5筋位取り型筋違い角は左右どちらにも仕掛けることができる構え。ここから激しい攻め合いが起こりやすい。

 

以上、基本的な考え方についての解説でした。
主に序盤の場面でプレイヤーがどういう風に考えて形を作っているかはなんとなく分かってもらえたかと思いますが、この後激しく駒がぶつかり合い始めてからがリアルタイムバトル将棋の対戦の醍醐味とも言えます。
瞬間瞬間の思考パズルの解き合いのような感じで、操作力と一瞬の判断力、アドリブ力のようなものが激しく要求されます。
そのあたりの解説については、あるかないか分かりませんがまた次の機会にということで。
読んでくださってありがとうございました。